先輩紹介
横田裕美
これが私の仕事!

『ブシュ』と呼ばれる筒型のすべり軸受の材料研究をしています。ブシュはオートマチック・トランスミッション(AT)などに使われ、ギア内で回転する軸を支える役割を果たします。研究のプロセスとしては、まずATがどんな構造、機能を持っているのかを把握し、そのためにどんな材料が必要となるかを考えていきます。数年前からは、環境に配慮した鉛フリー材料研究に力を入れています。

2年越しの研究の結果は吉と出るか、それとも・・・

「えっ!?鉛に代わる材料ですか?」
今から数年前、会社の役員から、鉛を使わない鉛合金軸受材料開発の依頼が来たのです。そのときは一瞬、自分の耳を疑いました。それまでブシュという軸受製品のほぼ100%が鉛を含む製品で、鉛無しで製品を作るなんて、小麦粉無しでパンを作るようなものでしたから(笑)。
そもそもなぜそんな話が出たかというと、環境保全の一環から。ブシュは車のATやポンプなどのユニットの中に複雑に組み込まれているので、廃車後も回収することができません。不法に廃棄されて鉛が人体に入る危険性を恐れて、将来ヨーロッパ向けの車には鉛を含む鉛合金ブシュの使用は禁止される方向に動いているのです。
そんな鉛を含むブシュに代わる材料の開発は、会社のこれからを左右すると言ってもいいほどの一大プロジェクト。
「こうなったらもう、やるっきゃない!」
不安はありましたが、前だけを見て3人の研究員と実験に取りかかりました。
「摩擦を減らし、加工しやすく、なおかつ低コストで‥‥」
求められる性能を満たす材料を作るため、実験室にこもって30種類余りの金属物質の配合をくり返しました。2年の試行錯誤の末、ようやく3種類に絞り込み、試験用の金属板にすることができたのです。硬度や摩擦レベルの低さなど、すべての基礎評価もクリア。
「よし、これならいける!」
工場で完成形に加工し、実際にユニットの中に組み込んで最終試験へ。ところが結果は惨敗‥‥。回転時の摩擦を抑えられず焼付きを起こし、熱で軸が軸受にくっついてしまったのです。固着して軸の回転が止まったら、ユニットとしての機能がなくなったも同然。2年の研究は水の泡となってしまいました。

発想の転換が成功へと導いた。 仕事の様子

2年がかりの研究がふり出しに戻り、私たちは途方に暮れて実験室へ帰りました。
「納期も迫っているのに、今さらどうしたら‥‥」
「やっぱり鉛に代わる材料なんて、作れるわけないんだよ!」
気持ちが沈み、仲間からのグチもこぼれるなか、1つのアイデアが私の頭に浮かんだのです。
「これまでは、『焼付きを起こさない』のを前提にしてたけど、焼付いても軸がくっつかないように改良すればいいんじゃない?」
まさに発想の転換です。そしてその材料はというと‥‥、私が初めに作って失敗だと思い、お蔵入りしていたものだったんです!それから急ピッチで実験、評価をくり返し、円筒型のブシュに仕上げました。さらに、ユニットに組んでの最終試験。もう後戻りはできない状態だったので、祈る想いで結果を待ちました。
「やった!くっついてないよ!!」
期待通りの結果が得られ、試験から2年後、無事に製品化へと結びついたのです。そのときはもう、嬉しいというよりは、長年の不安が抜けたという安堵感の方が大きかったですね。
私は今では立場が変わり、テーマごとの計画を立てたり、研究の段取りを組んだりといったデスクワークが増えてきました。それでもやっぱり、机にじっとしていられず、1日に何度も実験室に足を運んでしまう私‥‥。どんなにベテランになろうとも、「分からないことを突き止める楽しさ」を味わい続けていたいんですよね。

学生さんへのメッセージ

私の場合、大学での専攻とは関連のない研究をしています。ゼロからのスタートでしたが、自分が開発した材料で特許を取れるまでになりました。大学はたったの4年ですが、会社には数十年勤めるわけです。だからあまり“やりたいこと”を狭めず、未知の可能性を見つけるつもりで会社選びをすると良いですよ。

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